「超生物」という言葉を耳にしたことはありますか?超生物は「超個体」と言い換えることができます。
これは多数の生命体が集い、それ自体がまるで一つの個体であるかのように振る舞う生物的な総合体のことです。そしてこの超生物は、サイバネティクスの分野では「限定的な知能や情報しか持たない個体が多数集まることで、個体の力を超えた大きなことを成し遂げる」と説明されます。
まるでSFのようなこの話。しかし、私たちヒトも、実はこの「超生物」だったとしたらどうでしょう?今回はそんなお話です。
人体を構成する細胞の数は数十兆程度ですが、その体内に生息する細菌の細胞数は100兆個を超えます。
こうした体内の微生物が、免疫系など人体の仕組みに密接な相互作用をしていると考え「人間とは、ヒトの細胞と微生物とが高度に絡み合った集合的有機体と見るのが適切だ」という論文をイギリスの研究者が発表しました。
つまり体の細胞は、私たち自身のものではなく「バクテリア(細菌)」の集まりなのです。例えば私たちの体の細胞の中に存在する「ミトコンドリア」という組織は微生物が共生し変化した後、私たちの体の一部となったものです。
このように私たちヒトは、このような細胞、細菌、菌類、ウイルスなどの非常に複雑に集合した「超生物」であると言えます。
宿主である動物の生存戦略と口腔菌・腸内細菌の機能は密接に関わっています。これらの細菌は、有害菌の増殖を防ぎ、栄養の吸収を助け、免疫機能を担うなどの生命維持に必要な役割を果たしています。
ヒトも動物も、口から肛門までは一本の管のようにつながっている、という考え方は昔からありますが、これは極端なことを言えば、口や腸などの消化管は体内に存在するにも関わらず、食べたものや体外の菌等の異物にさらされるため「体外」であると捉えられます。
このことから取り込む菌や食べ物は、内なる外である口や腸の健康に大きく影響を与えるのです。
ここからは食べ物や取り込む菌によって、環境に適応し生きている野生動物に注目して、菌がどのように関係しているのか見ていきましょう。
植物の中には草食動物に食べられないよう、苦みを感じさせる成分を含む・消化を妨げるなどの特徴を持つものが存在します。
それに対して適応し、肝臓で毒物を解毒する場合や、苦みを感じさせる成分を分解する腸内細菌がいることで、植物を食べることが可能になる、という動物も存在します。
その一例をご紹介すると、草を食べることで知られているヤギの反芻胃液からは毒性のある「ミモシン」を分解させる細菌が見つかっており、苦みを生み出す「タンニン」に作用する細菌が、ユーカリを食べるコアラや、高山の植物を食べるニホンライチョウから高い確率で見つかっています。
コアラの赤ちゃんは生まれた時にこの腸内細菌を持っていません。そこでコアラのお母さんは、自分のウンチを赤ちゃんに離乳食として与えることで、ユーカリの葉の消化ができるロンピネラ菌を腸内に入れています。
このように植物が食べられるようになっているのは、腸内細菌のおかげなのです。
また、野生動物の腸内の細菌は、生存戦略のために必要である場合があることが分かっています。それに伴って、腸内細菌も生きるために様々な適応をします。
例えば「宿主である動物の食事に応じて優占種が代わる」「ヒト科霊長類が植物食から雑食へ移行する過程で、ある細菌種の遺伝子群が獲得される・欠損する」といったことが認められています。
このように、消化管に影響する菌によって野生動物の健康状態は左右されます。野生動物を見習って、私たち人も一超生物として、食べ物や取り込む菌を意識することが大切です。
菌を取り込むことは人の未来の治療にも役立つかもしれません。
Scienceに掲載されたノースカロライナ大学の研究によると、お腹の中にLachnospiraceae属という細菌を多く持っているマウスは強い放射線(致死量放射線)を浴びても生き残るということが分かっています。
放射線を浴びると血液の生まれたばかりの細胞を活性酸素が攻撃するため、死んでしまう個体がほとんどいる中、Lachnospiraceae属の菌を獲得しているマウスは活性酸素からの攻撃を防御できるのです。
これは人でも同じで、この菌を多く持っている人は放射線療法を受けた際の副作用が減ります。
放射線治療にこの菌が導入し、治療されている方の負担を軽減できる未来も遠くないかもしれません。
皆さんは、前文ででてきた「細菌叢(フローラ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
人や犬猫の腸やお口の中にも野生動物と同じように、沢山の菌が生息し、多数の細菌が集まっている様子は「フローラ」と呼ばれています。
この口内・腸内フローラのバランスが崩れてしまうと、口内であれば歯周病リスクが高まる、腸であれば、便秘や下痢・肌荒れの原因になる等、健康に影響を及ぼします。
菌の存在を意識し、菌バランスの取れた食事やケアを行うことで、フローラのバランスを崩さないよう日々の健康に繋げていきましょう。
■お口の中のお花畑が健康を左右するお話(口内細菌叢/口内フローラ)
■意外に多い、犬・猫の口臭問題
私たちは無数の生命体が集合して一つの個体である、という考えに基づいて菌との関係について解説しました。
菌というと体に害を及ぼすものが思い浮かび、菌=殺菌するものと捉えている方もいるかもしれません。
ですが私たちは超生物であり、菌と共生して初めてヒトとして生きています。
その菌が体にどのような影響をもたらすのかを知り、菌バランスを考えたお口ケア、腸内ケアを意識して健康に役立てていきましょう。
・ブリスケア(サンビアン社)
・Zendaman(プレミアモード社)
・ブリアン(ウィステリア製薬)
・オーラルクリアSS-K12(DHC社)
・ロイテリ(オハヨーバイオテクノロジーズ社)
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