お口の生態系コラム
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醤油づくりで生態系の世界を仮想体験

菌の世界に足を踏み入れると、往々にして神秘的な事実にたどり着きます。今回の記事では“自作自食”を実践する佐藤さんの取材を通じて「生態系の世界を醤油づくりで仮想体験」していただきます。もしかしたら毎日使う身近な醤油の見方が変わってしまうかもしれません。

<発酵食品と菌の関係>

古くから日本人に馴染み深い食べ物である発酵食品ですが、みなさんは発酵食品に対してどんなイメージをお持ちですか?「身体に良い食べ物」、「保存食」、「食べるとキレイになれる!?」など、身体に良いイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。では、なぜ身体に良いと言われているのか。それは、発酵食品に含まれる菌や微生物にヒントがありました。

<オーガニック野菜との出会い>

今回、オーガニック野菜や発酵食品に魅力を感じ様々な活動に取り組んでいる佐藤さんにお話しをお伺いしました。佐藤さんは“副作用の無い創薬”をテーマに菌の研究開発をしている「プレミアモード」に勤務しており、公私ともに菌づくしのライフスタイルを過ごしています。佐藤さんとオーガニック野菜を引き合わせたのは、体調の変化が大きなきっかけだったと言います。

「元々アレルギー体質だったのですが、年齢と共に調子が悪くなりこのままでは良くないと感じ、身体が気持ち良いと喜ぶ食べ物って何だろうって考えるようになりました。食べることが大好きだったので、“安心して美味しく食べていけるものを”との思いで試行錯誤しました。そして、その結果たどり着いたものがオーガニックだったのです。」

佐藤さんは、オーガニック野菜を食生活に取り入れながら、さらに深く調べるうちに、自分で作ってみたいという想いが強くなり、とうとう農業の世界に足を踏み入れてしまったのでした。
“自作自食”の実現です。安心できるものを自分で作るというスタイルがここから始まったのです。

<土を殺菌することによる大きな代償>

オーガニック野菜を作って分かったことは、土の大切さだと語る佐藤さん。

「土には沢山の菌と微生物が含まれており、菌や微生物によって土が肥え立派な野菜に成長することを初めて知りました。農薬を使って作られる野菜は綺麗かもしれませんが、農薬を使うということは土を殺菌するということ。それは、大切な菌や微生物を退治するということです。」

「土の中を殺菌すると菌や微生物が退治され土がやせてしまう。土がやせると野菜が育たなくなる。育てるために化学肥料を入れて補う。こんな悪循環では美味しい野菜は育ちませんし、土も生き返りません。菌や微生物のことを考えると殺菌は必ずしも必要ないのだと気づいたのです。」

「菌のバランスが良ければ、美味しい野菜に育つんです。人間も自然界の一部。自然界の環境を崩さず一緒に生きていく、できるだけ菌バランスを整えて菌とも共生して生きていけばいい・・・そんな考えにたどり着きました。そうすることで、美味しいと思える最高の食材を食べることができるのです。」

「色々な野菜を作り食べてくと、今度はこの美味しい野菜を使って何か作れないかと考えるようになりました。そこで美味しくて毎日食べているものは何か、と考えたとき、身近な存在の発酵食品だと思いつきました。発酵食品は菌が発酵を促し美味しくなる、菌との共生がなければ作ることができない、菌の働きがとても重要な食品ですが、どうすればおいしくできるのかは未知数でした。」

<五右衛門ならぬゴエモンとの出会い>

「発酵食品を一人で作ることは私にとって容易なことではありません。そこで、“カラダにも地球にも優しい安心安全なモノつくり”を掲げ活動されている“ちーむゴエモン”の高橋律さんが、自分で育てた野菜を使って醤油作りをしていることを知り、醤油作りに参加させてもらいました。」

ちーむゴエモンとは “みんなで五右衞門風呂を作って、持続可能なエネルギ-、森林資源や水資源、地域の助け合い等について考え、実践してみよう”と2009年春にスタートした里山暮らしを楽しむ会。だから“ゴエモン”。

その活動の一環として安心・安全で身体にも地球にも優しい醤油作りを目指し、農薬や化学肥料を使わず大切に育てた大豆や小麦を使用して醤油作りに取り組んでいます。

■相模湖里山暮らしの会「ちーむゴエモン」

<醤油作り ~ひなた仕込み製法とは~ >

佐藤さんに教えてもらった、ちーむゴエモンでの醤油づくりをご紹介します。手作り醤油の材料はとてもシンプルで「大豆・小麦・塩・たね麹・お水」だけ。このシンプルな材料が1年という時間を経て美味しい醤油に生まれ変わるのだと言います。

一般的な醤油の作り方としては本醸造方式が主流ですが、高橋さんは「ひなた仕込み」という製法を取り入れ、約1年ほどで『発酵~圧搾~火入れ』の全ての工程を終えます。“ひなた仕込み”は夏の照りつく太陽の熱を利用し室温を50度くらいまで上げ、櫂入れをしていきます。たね麹を過酷な環境下に置くことでより一層、発酵を加速させる製法とのこと。

<発酵するということ ~菌との関係~>

この発酵を加速させることがとても重要。「発酵」は、「菌が活発に動いている」ということ。菌が活発に動くことができる環境を作り、様々な菌が発酵を繰り返すことで「甘味・香り・色・コク・まろやかさ」などが生まれ、それが味の変化につながります。つまり発酵はうまみの素を作り出してくれる大事な役割というわけです。

発酵が進み熟成したら、いよいよ「圧搾・火入れ」。醤油作りも佳境となります。圧搾や火入れをしたからといって菌が死んでしまうわけではなく、その証拠に出来上がった醤油を瓶に詰めて保管していると「ポーン」と栓が抜けてしまうことも。これは菌が生きている証拠。発酵が進んでいるからおこります。出来上がった後も菌は生き続けています。

「麹が発酵して菌が働くことで、味に変化が生まれ美味しい醤油が生まれます。わたしは菌のすばらしさをここでも知ったのです。菌や微生物は奥深く、本当に魅力的。これからも自然と共に、菌や微生物との共生を大切に、美味しいものを食べることを追求していきたい」と佐藤さん。

<麹と歯周病の意外な関係性>

そもそも麹は、米や麦などを蒸したものに麹菌を付着させて培養して作られます。まさしく菌との共生から生まれたもの。実はこの麹には驚きの働きを隠し持っていることが最新の研究でわかってきました。それは、なんと歯周病の抑止。これは広島大学による研究報告で“麹が歯周病を不活性化する働きの報告です。(※1_参考文献)

私たちの体は、健康を維持するために菌と共生する、という生態系のメカニズムの上に成り立っています。とても繊細で多様な菌のバランスは花畑を意味する“フローラ”と呼ばれています。体はもちろん、お口も善玉菌によって健全なフローラを維持することで口臭や歯を失う原因である歯周病リスクを減らすことができます。

このような報告は数多くあります。いずれにしても大切なのは菌との共生や菌バランスを整えること。今まであまり気にしたことがなかったという方も、この記事が菌の世界に足を踏み入れるきっかけになれば、と思っています。奥深い菌の世界で、あなたは神秘的な事実と出会えるかもしれません。

※1_参考文献  2015 年度 研究成果報告書
■歯周病菌の病原性を不活化する麹菌由来物質の構造と機能

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