人の口腔内には約700種類の菌(善玉菌・日和見菌・悪玉菌)が、約1000憶個も生息しており、「腸内フローラ」同様に「口内フローラ」と呼ばれています。
フローラ(flora)とは細菌叢(さいきんそう)のことで、多数の細菌が生息する様子が、まるでお花畑のように見えることから名付けられました。
お口の中の細菌「口内フローラ」は健康にはとても重要で、この多種多様な細菌のバランスが悪くなると、歯周病リスクが高まります。歯周病は心筋梗塞や狭心症などの原因となる動脈硬化症、糖尿病、関節リウマチ、認知症など、さまざまな疾患リスクを高めることが報告されています。
今回は、健康を左右する口腔菌バランスについて簡単にご紹介いたします。ちなみに善玉菌、日和見菌、悪玉菌というのはひとつの見方であって、一概に分類することが難しいのですが、この記事では口腔内において歯垢の原因となる菌を、これまでのように“悪玉菌”と呼んでいます。
お口の中で悪玉菌が増えるとどうなるのでしょうか?
最初にお話しした通り、実は最近の研究から見えてきたのは「虫歯や歯周病になるだけ」ではなく、悪玉菌・・・特に歯周病菌が口の中で増殖すると、歯周病菌が血管に入ります。歯周病菌が血管で全身を巡り、これによって心筋梗塞・脳梗塞、認知症、がん、肥満などなど、さまざまな病気に大きく関与していることが分かってきたのです。
たとえば歯周病菌が認知症の原因物質を脳に蓄積させるメカニズムは2020年10月に解明され報告されました。
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■「歯周病予防」の口腔ケアが「認知症予防」になるというお話
このように歯周病菌は歯周病だけでなく、全身のあらゆる疾患に関わっています。
では、歯周病菌を含む悪玉菌は、どのように増えるのでしょうか?これまでの研究からわかってきた、お口の「善玉菌と悪玉菌のバランス」のメカニズムを簡単にご案内いたしましょう。
まず歯周病の所見を持っている人は年齢とともに増加して、2016年厚生労働省歯科疾患実態調査における結果(下記)によると、歯周ポケット・歯石・歯肉出血の所見を含め何らかの所見を認める(歯周病の所見をもつ)人は40歳代以降で80%近くになることが判明しました。
■歯周疾患の有病状況(e-ヘルスネット/厚生労働省)
これによって直ちに“8割が歯周病という表現は大げさ”ではありますが、歯周病が年々増加傾向にあるのは間違いないと考えられます。この歯周病の予防については下記の記事で触れています。
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■「歯周病予防」の口腔ケアが「認知症予防」になるというお話
では歯周病菌はじめ口腔悪玉菌が増えるメカニズムについて簡単にご案内したいと思います。 私たちの口腔内には良い働きをする「善玉菌(緑)」と歯垢の原因となる働きをする「悪玉菌(黒)」、どちらにも属さない多くの「日和見(ひよりみ)菌(紫)」が存在します。日和見菌は、善玉菌と悪玉菌の優勢な側に味方をする性質があります。善玉菌優位の正常なバランスが崩れ悪玉菌が優位に傾くことで歯垢の付着が加速し、虫歯や歯周病の発症・進行リスクを高めると言われています。
ですから、普段から気を付けておきたいのは善玉菌優位の口腔環境を維持すること。そのために大切なのはブラッシングやフロスなどのセルフケアになりますが、セルフケアと併せて、唾液の出やすい環境維持も重要です。唾液はお口の粘膜についた菌を洗い流す洗浄作用を持っています。
唾液を維持するためには、いびきや口を開けて寝る傾向の人は、口の中が乾燥するため細菌が繁殖しやすくなりますから対策グッズを使用したり、また緊張すると唾液の分泌量が低下するのでこまめに水を飲んだり、リラックスできるように工夫してみましょう。
ところで近年、口内菌バランスを善玉菌優位に整えるための、世界から注目を集めている新しい方法があります。
それは、次にご紹介する口腔善玉菌を利用してお口の悪玉菌の増加を阻害するという世界が注目する最新の方法です。
この口腔善玉菌はニュージーランドのオタゴ大学の研究から確認されたもので、健常者の中でも特に虫歯にならない人の口腔内から発見された「口腔善玉菌K12(ストレプトコッカス・サリバリウスK12)」そしてM18(ストレプトコッカス・サリバリウスM18)」です。
口腔善玉菌M18は、天然の抗菌物質(バクテリシオン)」を産生し、悪玉菌の要塞を破壊します。口腔善玉菌K12は強力な抗菌物質であるサリバリシンA・Bを同時に産生し口腔内で定着することにより悪玉菌に対して攻撃的に働き、虫歯菌、歯周病菌に抑止力として働きます。
これらの善玉菌については、善玉菌を増やすメリットなど、下記の記事でご紹介しています。
・歯周病を抑止する口腔善玉菌K12
・歯垢/歯石を抑止する口腔善玉菌M18
◆医療関係者向け情報(口腔善玉菌K12/M18)
※参考文献 『化学と生物』2016年 54巻9号 633-639頁「歯周病と全身疾患の関連口腔細菌による腸内細菌叢への影響」
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