お口の生態系コラム
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かゆみの暴走を食い止める救世主はウンチ?!

<暖かくなると注意!
ワンちゃんの皮膚に触れる人は必見です>

動物病院で皮膚科の患者が最も多いのは春~夏です。

ワンちゃんは、気候が暖かくなることで、湿気が増え、皮膚が痒くなる、皮脂や汗が多くなる、湿疹ができるなど、皮膚のトラブルが増加します。

皮膚の病気は風邪や怪我のように、薬などですぐに改善できるものは少なく、長い目で付き合っていく治療法が多いです。

ここでは有名な犬の皮膚の病気、かゆみの原因、最新の治療法について紹介していきます。ワンちゃんと触れ合う機会のある飼い主さん、動物看護師さん、トリマーさんなどはぜひ本記事を参考にワンちゃんとスキンシップしていきましょう。

<ステロイド剤での治療は副作用のリスクも…
根治が難関な犬アトピー性皮膚炎>

犬アトピー性皮膚炎は、ダニや花粉、カビなどの環境中のアレルゲン(抗原)と呼ばれるものに対して過剰に反応することによって発症します。

主な症状は「かゆみ」で、多くのケースは若い年齢(1~3歳)で発症します。しつこいかゆみから舐める、噛む、引っ掻くなど、皮膚を傷つける行動をします。耳や顔、足、足先(指の間)、脇の下、お腹周り、尻尾の付け根などで特にかゆみの症状が出やすく、皮膚を掻き壊して「炎症」や「脱毛」、皮膚が黒ずむ「色素沈着」が生じることもあります。

遺伝が関与している場合もあり、柴犬、フレンチ・ブルドッグ、シー・ズー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどの犬種で多く見られます。

治療としてはかゆみや症状を緩和する薬での治療や、スキンケアや食事での改善を行う場合もあります。

薬には「経口ステロイド剤」などが用いられますが、ステロイド剤は、かゆみや炎症を抑制する効果がある反面、体の様々な臓器、組織に深刻な副作用が発症しやすくなるというリスクが伴います。

<かゆみの主犯格は「Th2細胞」
かけばかくほど生まれるかゆみの物質「インターロイキン-31」>

何故、「かゆみは発生するのか」についてご紹介します。

かゆみの主犯格はTh2細胞と呼ばれるもので、この細胞が、かゆみの原因となるインターロイキン-31という物質を出すことで、かゆくなります。

また、このかゆみの生じた部位を引っ掻くと、皮膚に傷がつき、さらにTh2細胞がインターロイキン-31をさらに生み出すため、さらにかゆくなり、引っ掻くことでインターロイキン-31が生み出され…と負のスパイラルに陥ります。

<かゆみの暴走を食い止める救世主が存在。
その救世主はウンチに存在?!>

ではステロイドなどの副作用のリスクのある薬を使わずに、かゆみを止める方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

まず初めに調査されたのが「糞便移植」でした。簡単に言うと、アレルギーの症状があるワンちゃんに、健康なワンちゃんのウンチを食べさせるというもの。ここだけ聞くとなんだか不衛生…と身を引いてしまう方も多いかもしれませんが、東京動物アレルギーセンターで実施された糞便移植の臨床研究に参加した飼い主さんからは、またやってほしいと声が上がったほどかゆみが治まる結果が出たのです。

この結果から、健康なワンちゃんのウンチの中にはアレルギーの暴走を止める細胞(制御性T細胞)を生み出す腸内細菌がたくさん存在しているということが分かりました。

つまり、アトピーの主犯となるTh2細胞の過剰反応は、体の中にいる制御性T細胞によって抑えられ、の制御性T細胞が増えればアトピーの症状を抑えることができるのです。

<最新の皮膚治療方法「乳酸菌マッチング」
体質に合った乳酸菌を取り込むことで体質を改善>

この糞便移植で結果がでたのはウンチの中に、アレルギーの暴走を止める細胞を生み出す腸内細菌が存在したためでした。

そこで同じように、アレルギーの暴走を止める効果がある菌を取り込むことで、同じような結果が得られるのではないかという説のもと「乳酸菌マッチング」という検査法が誕生しました。

糞便移植の臨床研究を実施した同センターで既に実施されている治療法で、その子に合ったオーターメイドの乳酸菌のサプリメントを飲ませるという方法になります。

アレルギー症状に効果があったと実感されている飼い主さんも多く、慢性的なアトピーなどの症状に苦しんできたワンちゃんや飼い主さんにとって、救世主のような検査として注目が集まっています。

<人でも菌を使ってアトピーが治る可能性!?
皮膚常在菌を移植することで痒み・不快感を軽減できる>

ワンちゃんのアトピー治療同様、人でも薬を使わない皮膚治療が期待できるかもしれません。

米国立アレルギー感染症研究所が、アトピー性皮膚炎の小児患者に、健康な人の皮膚常在菌を移植することで、かゆみや不快感が軽減する可能性があると発表しました。この臨床試験に参加した、20人中17人で皮膚の湿疹やかゆみが50%以上緩和し、重い副作用も生じず、菌を溶かした溶液を塗布したすべての部位で、その効果が確認されたのです。

このように皮膚の細菌(そう)のバランスや、皮膚の受けたダメージを修復する細菌(そう)の働きを高めるために、正常に機能している菌を体外から持ち込むことは、腸内や口内の細菌(そう)を善玉菌が優位な状態にすることで、健康を維持するという「菌バランス」について考えることが多い私たちにとって、あまり抵抗なく導入できる治療法と言えます。

<菌と共生する人・動物だからこそできる
見えないスーパーヒーローはすぐそばにいる>

私たち人も動物も、自身の細胞だけで生きられているわけではありません。乳酸菌や腸内細菌に手助けをもらうことで、外部からのアレルゲンやウイルスから、身を守ることができています。

そんな菌と日々共生している私たちだからこそ、菌を用いた検査や治療法を検討することができるのです。

今回は「ウンチ」の中にかゆみの暴走を止める菌が潜んでいましたが、お口の中にもお口の菌バランスを良くする「K12」「M18」といった菌も存在しています。

それだけではなく、体内、それを取り巻く外部環境にも、私たちを助けてくれる見えないスーパーヒーローはたくさん存在するかもしれません。

見えない菌への知識を高め、ヒトや動物にどんな良い影響を及ぼす菌がいるのか、関心を持って生活してみましょう。

<関連記事リンク>

■お口の中のお花畑が健康を左右するお話(口内細菌叢/口内フローラ)
■虫歯・歯垢の予防が期待される口腔善玉菌 M18
■歯周病や口臭にすぐれた効果がある口腔善玉菌 K12

<参考文献・サイト>

■皮膚常在菌の移植で小児アトピー性皮膚炎が改善
■東京動物アレルギーセンター
■おすそわけマーケットプレイスツクツク‼
第20話 犬の糞便移植と乳酸菌マッチング検査 〜前編〜

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